今の職場に勤め始めたのは4年前。
初めて職場へ行ったとき、建物の古さに驚いた。
後から聞いたところ、建物は築年数50年ほどだという。年季の入った建物だ。
お洒落でスタイリッシュな建物が多い世の中、こんな古びた建物で働くなんて気分が上がらなかった。というのが当時の正直な気持ちだった。
その古びた建物で初めて働く日、小さなシンクに備えられている本体操作型の給湯器を見つけた。
本体の真ん中に大きめの丸いスイッチがあり、それを押すとチッチッチッチと音を立てて作動し、本体から繋がるホースのような蛇口から温かいお湯が出てくる。
ひと昔前のこんな給湯器久しぶりに見た!と、心の中で言葉を放った。
同時に、子どものころの記憶が断片的に蘇った。
三歳まで過ごした、木造一軒家の台所にあった同じような給湯器。
その家の記憶は殆ど無いけれど、数少ない記憶の中の一つが、給湯器と向かい合ってご飯を作っていた母の後ろ姿。
私は母のその後姿をよく眺めていた。ほんの少し、あの頃に戻ってみたいなと懐かしむ。
職場の給湯器を見て若き日の母の後姿を思い出した後、今の母の姿を思い浮かべる。
当たり前だけど、今はそのころに比べて年を重ねてしまった。
私が生まれて約三十年、迷惑も心配もたくさんかけてきたし、困らせたこともあった。
昔の母と今の母、二つの母の姿を思い出すたびに、母親孝行していきたい、していこうと自分の心に小さく誓う。
もし、お洒落でスタイリッシュな建物で働けていたら、こういう気持ちになっただろうか。
おそらく昔の記憶など思い出せていないだろうから、そういう気持ちにもならなかったと思う。
古びた建物で働くのも案外悪くないのかもしれない。